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終わらない夏の湘南鉄道 第一部 夢機関車 A DREAM ENGINE「サザンビーチ」を含む
  (2)海岸公園入口駅
 

 

 八月三十一日、二十七時十五分。海岸公園入口駅に到着した。ゴッシュは、車掌室の窓から顔を出し、大声で叫んだ。

「海岸公園入口駅に到着だ。二十時まで停車する。」

 最初の駅で二十時まで停車するなんて不思議だなあ・・・アキラは、ゴッシュに尋ねてみた。

「どうして、二十時なんですか?時間が逆ですよ。」

ゴッシュは、質問には答えずに話の続きを伝達した。

イートが君達を待っている。イートは時の旅人だ。これからはガラスのマントを着たイートが旅の案内をしてくれる。さあ、降りるんだ。」

 アキラとアイカがプラットホームに降りると、丸い帽子を被った男が、音も無く近づいて来た。上着の胸には、すみれの花が輝いている。

「イートさんですか?」

 アキラが尋ねた。

「そうだ、イートだ。ゴッシュの友達だ。君がアキラで、君がアイカだ。」

 夏の終わりというのに、マントを着た男は、二人の顔を穴のあくほど見つめると、堂々たる態度で話を続けた。

「アキラはパン屋へ行って、波乗り板を買って来い。アイカは海へ行って、ビーチ・グラスを拾って来るんだ。」

 男は、そう言って、<波のカード>と<小さなバケツ>をくれた。ガラスのように透明なバケツの中で、カードに書かれた海の絵が揺れていた。アキラが振リ向くと、男の姿はなかつた。アキラは、右手でアイカの左手を引いて、パン屋へ向かった。

「こんな夜中にパン屋が開いているのかなあ?」

 アキラがアイカに顔を向けると、少女は左手で東の空を指差した。

「夜じゃないよ。」

 たしかに、東の空には、明星(あかぼし)が見えていた。夜光雲の彼方に。

 空から、イートの声が滲み出た。

時が流れていると思うなら、それは錯覚だ。時は無限に存在し、しかも、それぞれが自由だ。」 

 イートの声が消えると、ニ人は駅前のパン屋の前に立っていた。パンを焼く香ばしい匂いが店から流れ出し、道路を覆っている。

 アキラはパンの匂いを辿って店に入り、大声でパン屋のおやじを呼んだ。

「朝早くすみません!」

 面倒臭そうに、いつもの独り言をブツブツ呟きながら、奥の方からおやじが出て来た。

朝と思えば朝だし、夜と思えば夜だな。火点し頃だと思う人がいれば、明星の見える人もいる。これを、人の勝手と言うんだな。

 おやじの目とアキラの目が合った。

「なんだ、アキラじゃないか。焼きたてのブドウコッペなら、もう少し時間がかかるぞ。ハム・サンドでも作ってやろうか。腹が減っては軍はできぬと言うからな。」

 おしゃべりなおやじの透きを見て、ようやくアキラが話しかけた。

「違うんです。イートさんに、波乗り板を買って来るように言われたんです。」

「イートか?」

 おやじは、下を向いて凍った。発音するために、口だけが動いている。

「ボードなら、こっちだ。」

 ・・・体温が戻ったのか、おやじは顔をあげて、またおしゃベりを始めた。

「いま、持って来てやるから、少し待ってろ。アキラならドルフィンだな。バタフライは難しいからな。乗り熟すのに十年はかかるな。ドルフィンなら、初心者だって何とかなると言うもんだ。」

 おやじは、大きなジャムの瓶をショー・ウィンドーから三つ取リ出して、色鮮やかな順に、アキラ達の前に並べた。

「これが、バタフライ・ボードの素だ。こっちが、ドルフィン・ボードの素。もうひとつのでっかいのは、ホエール・ボードの素だ。アキラなら、ドフィンがおすすめだ。」

 三つの大きなジャムの瓶には、ガラスでできた蝶と、イルカと、鯨が、それぞれ入っている。アキラは蝶が入っている瓶を手に取った。瓶の中では、小さなガラス細工の蝶が、アキラの見た事もない赤い蝶々が、鮮やかな光を放っている。

「バタフライが気に入ったようだな。バタフライは難しい。安定しないからな。これからは、ドルフィンの時代なんだがなあ。バタフライに乗るなら、人一倍練習するんだな。」

 アキラは、瓶の中の赤い蝶々に見とれていた。アイカも、アキラの後ろから上半身を乗リ出して、瓶の中で輝く、美しい蝶々を見ていた。

「わかった。練習するよ。」

 そう言うと、アキラはイートからもらった<波のカード>をおやじに渡して、店を出た。

 瓶をポケツ卜に押し込むと、アキラは右手でアイカの左手を引いて、海岸へ向かった。

 

 

クョスコニョ    [1] 
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