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終わらない夏の湘南鉄道 第一部 夢機関車 A DREAM ENGINE「サザンビーチ」を含む
  (4)銀河大橋
 

 

 八月三十一日、二十時。

「さあ、旅の続きだ!」

 迫るタ闇に、テリーが警笛を鳴らした。

「ここから湘南ヶ丘まで突っ走るぞ。銀河大橋を通過するのは、二十時三十分きっかりだ。」

 列車は砂丘の中を疾走し続けた。ずっと窓の外を見ていたアイカの眼が、夕間暮れ、砂丘の片隅で蠢く黒い物体を捉えた。

「あれは何?」

 アイカは、好奇心に溢れた明眸をイートに向けた。イートは、さながらオペラの幕が上がる時のように、心を弾ませて話を始めた。

「戦車だ。戦車が集まってきたぞ。さあ、花火大会の始まりだ。

「花火大会?

 アイカは立ち上って、車窓に顔をつけた。イートは、話を続けた。

「そうだぞ。花火大会だ。ここの砂丘には、九五式花火戦車がいっぱい集まってくる。」

 アキラは、アイカの小さな後ろ姿を見つめて、困惑している。アキラの心を恐怖の影が支配し、体中を跋扈する。咽の奥から暗い気体が上昇し始め、とうとう口から飛び出した。

「攻撃してこないんですか?」

 イートは、大笑いした。

恐怖心を捨てるんだ。何も怖いものはない。地獄に落ちた者は、そこが地獄だと思っているが、それは間違いだ。地獄とは、已自身が作り出した世界なのだ。地獄に居る者は、自分自身が地獄である事に気付いていない。だから、地獄から抜け出せないでいる。だから、他人のせいにする。だから怖れている・・・だから怖いんだ・・・戦車が人殺しに使われたのは、大昔の話だ。もっとも、ここの砂丘は訓練に使われただけだ。イペリットの不発弾が見つかったという話も聞くが・・・」

アキラが大声を出して、イートの話を遮った。

「こっちを向いている。攻撃してくる!」

 戦車は線路に向って一列に並んだ。砲塔を八十度の角度で空に向けている。先頭の戦車が最初の砲弾を放った。

「花火だ!」

 アイカが叫んだ。砲塔から飛び出た炎の塊は空中で炸裂し、パステル・カラーの曲線を描きながら、尾を引いて、ゆっくりと下降する。炎の軌跡によって、無数の放物線が描かれた空間を掻い潜って、夏の列車は疾駆した。

 十時三十分、舞台のクライマックスを告げる仕掛花火が点火された。

「橋だ!」

 姿を見せ始めた仕掛花火の炎の中へ列車が突っ込んでいくとき、アキラの体中を支配していた恐怖は、興奮に昇華していた。

「二十時三十分。ぴったりだ!大成功だ!」

 テリーが警笛を鳴らした。

「さあ、湘南川を渡るぞ!」

 光と炎に包まれて銀河大橋を駆け抜けると、夏の列車はを後にして、穏やかな景色が続く江西地方の平原を、森の領域に向って、巡航速度で走り続けた。

 華やかなレビューが、グワッシュと不透明絵具で描かれたタブローになって、凛とした空気とともに、記憶に残された。単調な生温い景色の中で、イートが下を向きながら口を開く。

「どうして、<銀河大橋>という名前が付いたか知っているか。」

 アキラは無意識に答えた。

「いいえ、知りません。」

 イートは窓の外に視線を移し、独り言を呟くように、ぼそぼそと説明を始めた。

「昔・・・湘南川は濁っていた。家庭の下水や工場の排水をそのまま流していたからだ。世紀末のある年・・・九月の終わり頃だった。川面に大量の魚が浮いた。川は銀色の魚で埋めつくされた。空からは、今にも雨が降り出しそうだった。橋の上から多くの人々が川面を見つめていた。銀河の星のように、無数の死んだ魚が浮いていたんだ。」

 

クョスコニョ    [1] 
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