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終わらない夏の湘南鉄道 第一部 夢機関車 A DREAM ENGINE「サザンビーチ」を含む
  (6)天体観測所
 

 

 

 ゴッシュは、計算機を片手に、歌を歌いながら、ギア・ボックスの前に立っている。

「・・・おおきなのっぽの古時計・・・おじいさんの時計・・・百年いつも動いていた・・・ご自慢の時計さ・・・おじいさんの生まれた朝に・・・買ってきた時計さ・・・いまはもう動かないその時計・・・」

 アキラが独り言を言った。

「花粉症が心配だなあ。」

 イートは、笑いながら、アキラに答えた。

「心配するな。天体観測所のストーンズ博士に会うんだ。彼は星の事なら何でも知っている。星の花粉症の予防法も知っている。」

 

 ゴッシュがギアを外すと、客車にガクンと衝撃が走り、アキラ達の体が前後に揺れた。慣性航法は、ゴッシュの計算と経験により、正確に実践され、ケーブル・カーは、音も無く目的地点に停止した。

 ケーブル・カーを降りると、駅は天体観測所に続いていた。階段をのぼって、屋上へ向かう途中に、中二階の細長い廊下がある。アキラとアイカは廊下を進んだ。まっすぐに伸びるトンネル状の長い廊下を突き当たると、そこには、セキュリティー・ゲートがあった。アキラは、ポケットからビーチ・グラスの欠片を取り出し、ゲートのくぼみに置いた。一片の氷心がゲートを消した。

 ストーンズ博士の研究室が姿を現わした。アキラが、研究室のドアを開けると、車イスに座って複雑な計器に向っている、丸顔で小太りの老人が振り向いた。

博士の柔和な目を見て、アキラは躊躇わずに話しかけた。

「星の花粉が欲しいんだけど、僕、花粉症なんです。」

 ストーンズ博士は、車イスをアキラ達に近づけて、ノーベル賞受賞後の最初の講義を学生達の前で行った時のように、猛烈な勢いで話し始めた。

「星の花粉は、密な光子が液体状になったものだ。トンネル効果により、隣の宇宙からワーム・ホールを通って、やって来た光の贈り物だ。いて座周辺のワーム・ホールを通って、亜空間から流れ出してくる流動体宇宙で生まれた花粉が、一番良質だ。花粉症ならば、ゴーグルを掛けるんだ。ゴーグルを掛けると、空間が少し歪んで見える。現実が見えないと、心の悲しみに触れることはない。赤い涙は出ないはずだ。」

 そう言うと、博士は車イスを走らせて、ゴーグルを取りに行った。虹色の棚から、ゴーグルとジャム瓶をひとつずつ取り出すと、物凄いスピードで戻って来た。

「私の天体観測器は望遠鏡ではない。天体観測器の原理は、プラネタリウムと同じだが、天体観測器に付いている、球形をしたそれぞれの器は、宇宙の役割を果している。要するに虚数宇宙なのだ。その虚数空間光子を閉じ込めるのが、私の天体観測器の原理だ。私達は虚数宇宙に存在しているから・・・おっと、君達は、まだワーム・ホールを通って来たばかりだったな・・・ちょっと難しいと思うが、この世界は虚数時間が支配しているんだ。だから、虚数空間だって、隣に存在していいはずなんだ。私の天体観測器を使って、星の花粉を集めるんだ。ワーム・ホールを探せ。銀河の中心、いて座のα(WEST)とM二〇の暗黒星雲の間を調べろ。さそり座の尻尾の先だ。あとは自分達でやるんだ。私は忙しい。存在している間に計算したいものがあるから。

 ストーンズ博士は、後ろ髪を引かれるように、話を続けた。アキラとアイカには、さっぱり理解できなかったが、二人は行儀よく、博士の勿体無い話を聞いていた。

「君達の宇宙では、時間と空間は明らかに異質のものと認識されているが、量子宇宙の世界では、この二つは本質的に差がない。時間は虚数で表わされる。ステンド・グラスにたとえるなら、時間も空間もみな同じガラスからできていて、整然と並んで収まっている。しかも、始まりも境界もない。それが、あるとき時間が虚数から実数に転化する。空間のない状態から、虚時間宇宙を通り、君達の実時間宇宙へと転化する過程は、トンネル効果による、無から有の発生にもたとえられる。また、ワーム・ホールがたくさんの宇宙を繋ぎ、宇宙定数の大きさを、うまくゼロに調節するのだ。宇宙には、このような微細な穴がいくつも開いている。そして、この穴は、同じ宇宙の過去・未来、あるいは他の宇宙にも通じている。」

 ストーンズ博士の話は、突然終わった。博士は猛烈なスピードで複雑な計器に向って、車イスを走らせた。

 アキラはゴーグルを掛けて屋上へ向かった。一九六〇年代のモッズ族風のスタイルを決め込んだアキラの顔を見て、アイカが大笑いした。アキラが、天体観測器の焦点をM二〇の近くに合わせると、アイカは、持っていたジャムの瓶をセットした。ジャムの瓶が輝き始めた。十分もしないうちに、瓶から花粉が溢れ出した。アキラは、瓶を外して蓋を閉めると、アイカに手渡した。

「きれい!」

 アイカが叫んだ。ゴーグルを外して、瓶の中で輝く黄金の光子を見つめるアキラの耳に、遠くで、幽かに、鹿の声が聞えた。

クョスコニョ    [1] 
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