辻村海岸の片隅には、臨海工業地帯の石油化学コンビナートの一工場を思わせる、複雑な建造物が残っている。海辺に聳え立つ二十世紀の城の正体は、海水淡水化実験施設跡だ。今は廃墟となった金属の塊も、二十世紀の果せぬ夢跡のひとつだった。
二十世紀の城を背に、アキラが、小さなバケツを持って渚に立っていると、アイカは、砂浜に顔を出した、色取り取りにきらきら光る小さなビーチ・グラスを拾い始めた。
ビーチ・グラスは二十世紀の化石。当時の人間達が海岸に捨てたガラス瓶が粉々に砕け散リ、海水に洗われて宝石となったものだ。貝塚のように貝殼とともに一ケ所に固まって埋もれている辻村海岸のビーチ・グラスは、特に美しいと言われている。
アイカの手には、茶色、水色、緑、青、様々な色のグラスが握られていた。アキラがアイカの手を開くと、それぞれのグラスが自由な形をしていた。
「どんどん拾って、このバケツに入れるんだ。」
アキラは、バケツを差し出した。あっと言う間に小さなバケツは、宝石で一杯になった。
「これで十分だ。」
アキラは、バケツのグラスを一握り左ポケットに入れると、右ポケットから<バタフライ・ボードの素>を引っ張り出し、バケツに乗せた。
アキラは右手で、アイカの左手を引いて、イートの待っている海岸公園入口駅へ向かった。駅のプラットホームで、アキラは、<バタフライ・ボードの素>と<ビーチ・グラスの入ったバケツ>をイートに見せた。
ガラスのマントを着たイートが微笑んだ。
「よくやった。うまくいきそうだ。」
無窮のタ照を背景に、駅の時計が午後六時を指している。
「食事の用意ができている。食堂車へ行こう。ゴッシュとテリーが待っている。」
イートの案内で、アキラとアイカは食堂車へ向かった。食堂車の灯が点り、五人は停車中の列車の中で、ゆっくりとタ食を楽しんだ。
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