＊拷問（１）

「はい抜けましたよ」
「傷口押さえていますからね」

「よかったですよ。コージーさん」
「薬で行きましょう。手術の必要はありません」

（そうだよ。この人の心はそんなに狭くない。心を変える必要はないよ）

「血管が収縮するんですよ」
「少し年齢より硬化はありますけど」

（そうだよ。この人は何かを畏れているだけなんだよ。そんなに心は狭くないよ）

「ごめんなさいね。痛かったですね」
「この人の麻酔のせいかな。」
「ここの先生はみんなお上手ですから（何が？）」

「マエバリ取ります」
ペロッ
「イテー」

「縛りますよ」
バチバチバチ
ギューギューギュー

「先生、初めてだから足も」
バチッ、バチッ

「病室に戻ります」
再び天井がスピードを出す
渓流の流れの如く

「移動しますよ」
「せえーの」
ドン

「足固定」
バチッ

「四時間がんばって下さいね」
「動かさないでくださいね」

（一時間三十分経過したよ）
ああ苦しい、腰も痛くなってきた

（三時間経過したよ）
腰の下にタオルを押し込む、左足を動かす

（四時間経過したよ）
ああ苦しい、冷や汗も出て来た

（四時間半経過したよ）
呼吸も荒くなる

もう限界、ナースコール
「先生呼びますね」

「Ｗ先生検査中なので私が来ました。外しますよ」
バキッ、バキッ
「楽になりましたか。辛かったですか」
「お腹が・・・」
「食い込んでましたね。はい、いいですよ」

 ＊殺人現場

汗と涙は流すもの
血は飛ばすもの

あどけないナースの声
「トイレ行きますか」

条件反射
「はい」

一歩、二歩､三歩
「あーっ、血が、出て来ちゃった」

ポタポタポタ、ピュー
「こっち来て､座ってください」

火山噴火だ
ピッピュピュ､ピュー

「横になってください」
太股から紅い血のシャワー

血管を捜す細い指
両手の指に体重がかかる

血の海の上では
不思議な沈黙が続く

「ちょっと待っててください」
足音が遠ざかる

まもなく重く速い足音とともに
太い指が重い体重を乗せる

「血液をサラサラにする点滴をしているからねえ」
「タンコブになっちゃいましたね」

「太い管を使ったからかもしれないね」
「ゴメンナサイね。タンコブは少し痺れるかもしれないね」

ナースが床を拭いている
婦長が飛んでやって来る

「殺人現場になっちゃいましたね」
ナースが床を拭いている

「また、縛りますよ」
「ゆるく、縛りますからね」

「あっ、先生が来られました」
主治医がゆっくり入ってくる

「ゴメンナサイ、今終わりましてね」
「また、やっちゃいましたね」

「座るのと歩くのは違うから」
「６�o使かってんだから」

ナースが床を拭いている

 ＊拷問（２）

「あとどのくらいですか」
「ナースが尋ねる」

「うーん」
「２時間。６時まで」

（拷問は続くよー）

（６時間経過）
腰の下のタオルを丸めて斜めになる

（７時間経過）
主治医が静かにやってくる

「うん。うん。もう少しやってましょうか」
「はい。はい」

（８時間経過）
左足を曲げてみる。背中はびっしょり汗だらけ

（９時間経過）
検温のナースに尋ねてみる

「先生終わったら来られますから」

（医者もいそがしいんだぞー）

（１０時間経過）

疲れた顔の主治医がやってくる
「はずしましょう」

バキバキバキ
「苦しかったですか」

「おなかが」
腹が痺れて変な気分

「あー。コブになってないですね｡青くなったけど」
傷口の周りを太い指が押す

太股には、ほんの小さな傷ふたつ
こころへつながる傷ふたつ