この作品は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにして書き始めた。しかし、大人の童話としては難解すぎる。ミステリーにしては謎解きが少なく、SFにしては現実的である。哲学書やバイブルの匂いもする。
人間は、三次限空間を網膜に写して、二次限的情報を素粒子の働きによって脳に伝え、一次限的思考を行っている。筆者は、自分や同時代の人間達、そして、過去と未来を、二次元的記録に残したかったのだ。記憶と時間を一枚一枚の絵に残したかった。果して、現実は存在するのだろうか。私は、どこにいるのだろうか。思考こそが、人間存在なのかもしれない。
主人公アキラの存在する世界は虚数の世界。時は流れることがなく、時も空間も「ステンド・グラス」のように整然と並んでいる。どこで「愛」は実践されるのだろうか。アキラが実数の世界へ戻る時、アキラは伊東明夫となり、アイカは山野井愛となって、「愛」は実践できなくなってしまう。「愛」は虚数の世界でのみ実践されるのかもしれない。 やはり、筆者としては、この作品は、ラブストーリーであり、大人の童話であり、自分と生きた世代の記録なのだと思う。
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